製品、製造工程、製造環境における微生物モニタリングの結果は、培地上のコロニーとして認識が可能となります。しかしながら、検出された微生物のコロニーから引き出せる情報は極僅かであるため、通常はカウントによる「数」の記録、特徴的な「形態」や「色調」の記録に留まります。
 バイオバーデンや原因不明時の微生物汚染発生時には、「分類」と「同定」を行いより深い考察をすることが必要になります。この分類と同定に関しては簡易的な識別手法から学名到達までの学術レベルの定義までがあるため、求める情報や適用できる試験系により適切な手法を選択しなければなりません。

 お問い合わせを良く頂く項目ではありますが、各種ガイドラインでは体系的にまとめられている部分が少なく、自社内における基礎力量向上が難しい分野であるといえます。

 分類と同定の基本アプローチ、基本試験項目についてまとめますのでご参考にしてください。

微生物管理の技術支援はこちらhttps://www.kea-mgt.com/top-page/mbc/
微生物の分類同定試験はこちらhttps://www.kea-mgt.com/top-page/mbc/taxonomy/

分類と同定の基本アプローチについて整理する

 情報を集めることで分類を進めて行き、最終的に既知種基準株(Type Strain)との類似性を判定して初めて「同定」という結果に到達します。このため…
  ・このコロニーが○○菌であるか教えてください
  ・エリアA検出菌株と製品B検出菌株が同じ原因の微生物であるか判断したい
  ・同定試験の結果、この菌株がどのような条件で死滅するかの情報をください
などのアプロ―チと分類-同定試験から導き出される情報は必ず合致するわけではないとの前提を理解する必要があります。

「未知の菌株」→「いくつかの試験により情報を引き出す」→「既知種基準株と比較する」→「相同性があれば同定」となります。これはあくまでも既知種基準株との比較からの結論であるため、手持ち菌株の死滅条件や生育条件などの情報は別途個別に試験をして調べる必要があります。

高額な費用を使い検査会社に分析を依頼する事例を多く見受けますが、戻ってくる結果は…
 菌株No.XXXは、○○○○と高い相同性を示しました。
 菌株No.XXXは、○○○○と16S rRNA遺伝子の塩基配列領域において99.5%の相同性を示しました。
といった報告書であることが通常です。

微生物分類/同定の基本理解が不足している状態において、この結果から「実際の管理」や「問題解決への具体的アプローチを設計すること」は難易度の高いチャレンジであると言えましょう。

細菌分類同定の基本試験項目

「微生物分類」を行う上での基本的試験項目は比較的解りやすい項目に分けられます。自社製品や取引先製品に微生物管理の要求事項が関わる場合、品質管理/品質保証担当者は少なくともこれら項目についての理解を持つことが必要と考えます。
以下、細菌分野の分類同定の基本項目についてまとめます。

Ⅰ.表現型(Phenotype)
 文字通り「うつつを表す」試験項目です。形や色、活性など多種多様な試験項目からのアプローチです。
 -1.形態学的性質
  細胞形態、グラム染色性、運動性(鞭毛)、胞子形成など
 -2.生理・生化学的性質
  Catalase、Oxidase、生育酸素条件、各種糖源の資化性など
  製造プロセスや流通環境などの特定条件で生育するか、特定の滅菌条件で死滅するか等のも本項に含まれます

Ⅱ.遺伝型(Genotype)
 対象菌株の遺伝情報から分類同定を行うアプローチです。
 -1. G+C含量
   四塩基中のグアニンとシトシンの占める割合を測定する古くからある手法です。
 -2. DNA relatedness(DNA-DNA hybridization)
   対象菌株と既知種基準株を用い、DNAの再会合率から種レベルの同定を行う手法です。
 -3. 特定塩基配列のシークエンシング
   16S rRNA領域など特定部分の塩基配列を読み取り、データベース照合を行うことで近縁種を検索する手法です
   属範囲の決定、近縁性が高い場合は種レベル同定が可能です。

規格、ガイドライン等の記載

近年、各種ガイドラインや規格には微生物分類同定について具体的に適応を進める記述が増えています。

・日本薬局方17改正:G4微生物関連 遺伝子解析による微生物の迅速同定法

・ISO 11737-1:2006 医療機器の滅菌 -微生物学的方法- 製品上の微生物群の測定方法
 「バイオバーデンの微生物学的特徴づけ」

・無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針
  微生物モニタリングプログラム(菌の同定あるいは性状検査を行う)

「何の情報を引き出すか」により試験項目が変化する

 近年の技術進歩や価格競争により、比較的安価に微生物試験を自主実施及び外部委託できるようになりました。
 製品や製造プロセス、製造環境などにおける微生物汚染発生は、製品品質に直結する早急な是正措置と共に再発防止や監視下におくためのより強固なモニタリングシステム構築など様々なアクションが必要になります。
 画一的な分類同定試験に頼らず「何の情報を引き出すか」に意識を集め、具体的アクションへと繋がるため微生物管理を推進することが望まれます。

 KEA managementでは各種微生物管理の技術支援、品質管理部門サポート、分類同定試験、微生物汚染発生時の原因究明サポートなどを提供しております。

2017年は分類同定の技術スクールを開催予定です。お問い合わせはフォームよりお願いいたします